父の再婚を応援したいときにも活用できる家族信託


高齢になっても恋愛はしたいという需要は存在し、シニア向けのお見合いサービスなど再婚を支援するサービスも存在します。
このようなサービスを利用して新しい出会いがあっても、子供としては中々難しい思いが出てきてしまいますよね。
「親がまた新しい人生を元気に過ごせるようになることについては、いいことだと思うし応援したいとも思う。」という人は多いでしょう。
しかし長い人生の内少し一緒にいた相手に、両親が積み上げてきた財産が半分(配偶者の法定相続分)持って行かれてしまうというのは、中々納得できるものではありません。
その為応援したいという気持ちがありつつも、実際には応援できず反対の立場になってしまうことは少なくありません。
親のパートナーが元気であれば遺産分割協議で「自分は財産を相続しない」ということを言ってもらうことは出来ますし、元々そのつもりで入籍しようとする人が多いでしょう。
しかしパートナーとなる方の家族がそうとは限りませんし、パートナーが認知症などで判断能力が無くなってしまうと厄介です。
判断能力がなくなり後見人がついてしまうと、本人の財産維持の為遺産分割協議で法定相続分を主張されてしまうからです。
これは「元気な頃に本人がどう考えていた」という考慮はされないので、何も対策をしないと本人たちがどう考えていても争いの火種となってしまうのです。
このような親と新しいパートナーの恋愛が争いの火種にならないようにする方法のひとつとして、家族信託というものがあります。
そこでこの家族信託を活用することで、親と新しいパートナーの新しい人生を応援できるようにする方法を紹介します。
Contents
円満な相続になる条件

もしも父が再婚した後、相続が起きたときにどのくらい新しいパートナーに財産がいってしまうのかが気になる人は多いでしょう。
パートナーがまだ判断能力がしっかりとして、特に争いが起きず、遺産分割協議でそれぞれの家系の財産はそれぞれの家系に相続をするようになることも、もちろんあるでしょう。
もしも親とパートナーが「争いごとにはならないから大丈夫だよ」とおっしゃっているのであれば、お二方はそのようになると楽観視しているのだと思われます。
しかしこのような円満な相続が起きるためには
- 遺されたパートナーが元気
- パートナー側に財産が相続されないようにする
- 遺されたパートナーが遺留分の請求をしない
という条件があります。
遺されたパートナーが元気

パートナーとなる人が財産目当てでなく、本心から純粋に自分の親を愛していて財産自体は興味がない場合、その方が元気でいてくれれば円満な相続となるでしょう。
親が「生きている間はパートナーを家に住まわせてほしい」という要望を持っていて、「相続時に実家は自分たち子供で相続をして、パートナーの人には住んでいてもらう」ことに双方不満がなければ、財産の流失は防げて親の想いが叶う最高の相続となるでしょう。
しかし、これは「パートナーが元気」であることが前提となります。
もしもパートナーが認知症になってしまった場合、それ以降契約行為などは出来なくなり事実上財産は凍結されてしまいます。
後見人をつければ「本人の為」に財産を使うことはできますが、節税対策としての生前贈与などは出来ませんし、居住用不動産売却などの資産活用は家庭裁判所の許可がなければ出来ませんが裁判所から許可をもらうことは非常に難しいのです。
このような制限は「本人の財産を維持」することが目的であり、「親族による財産使い込み」などのトラブルを防ぐ為には有効です。
しかし融通が利かないので、この制度により不利益をこうむってしまうことが多いのです。
遺産分割協議は、相続人全員が合意する必要があります。
このときの合意は判断能力がなくなった人は出来ず、後見人が代理で行うことになります。
そしてこのとき、後見人は「法定相続分の要求」をしなければいけないのです。
後見人がしなければいけないのは「本人の財産の維持」ですので、もしも法定相続分よりも少ない相続分で話をされてしまうと、本来被後見人(判断能力のない人)が手に入れられるはずだった財産が手に入らなくなってしまうので後見人としては承諾できないのです。
これは本人の財産を保護する為なので、「元気なときにそういっていたから」という本人の意思は関係ありません。
そのためパートナーが元気ではなく、認知症となってしまった段階で円満な相続の可能性は限りなくゼロになってしまうのです。
パートナー側に財産が相続されないようにする

パートナーが認知症で財産の半分がパートナー側に相続されてしまった場合や、「アパートの賃料収入で余生を過ごしてほしい」と親がパートナーに財産を相続させてしまった場合、その財産はパートナーの所有物となっています。
そうなるとパートナーの相続発生時には父の財産であったものは、パートナーの相続財産となります。
この段階になって「元々は母の再婚相手の財産だったから返そう」という話になることは極々稀ですので、パートナー側の財産として受け継がれていくことになるでしょう。
たとえパートナーが「○○(親から相続した財産)は、親側の相続人に遺贈する」という遺言を書いていても、それ以外に財産が少ない場合にはパートナー側の相続人の遺留分を侵害してしまうことになります。
遺留分は法律で保証された最低限の相続分であり、これを侵害してしまうと遺言で書かれていても遺留分減殺請求をすることにより遺留分の部分は確保されてしまいます。
家族同士であっても争いに発展してしまいがちな相続ですので、別の家系が加わってしまえばより争いに発展してしまう可能性は高まるでしょう。
遺されたパートナーが遺留分の請求をしない

再婚の時には「財産はいらない」となっていても、実際に相続発生時にも同じ気持ちでいるかは分かりません。
そのような場合、とりあえず対策として書いた「パートナーには財産を相続させない」という遺言があったとしても、遺留分減殺請求で1/4はパートナーに相続されてしまいます。
最初に覚悟していたことでも、実際にその場になっても同じことが言えるかは分からないので、やはり対策はした方がいいでしょう。
このように円満な相続にはパートナーの意思はもちろんですが、それ以外でも健康状態や自分たち一族とパートナー側の一族全体の意思なども関わってしまいます。
そのため「自分たちは大丈夫だろう」ではなく、相続が起きたときのことを考えて対策を立てる必要があるのです。
その対策として最近注目を集めているのが、家族信託を使った対策です。
家族信託とは
CMなどでよく観る投資信託などは、信託銀行などが不特定多数に営利目的で行う商事信託です。
これに対して家族などの特定少数を対象に、営利を目的としないで行うのが民事信託で、家族信託はこの民事信託を指します。
財産を持つ人が信じられる人に財産を信じて託すことで、報酬の設定は必要ないので専門家に支援や監視を依頼しなければ「無報酬で実費のみ」ということも可能です。
常識的な額であれば報酬の設定も出来ますので、生前贈与にも活用できます。
- 委託者:自分の信託財産を受託者に託す人
- 受託者:委託者から信託財産を託される人
- 受益者:信託財産から利益を受ける人(税金や修繕費などの出費は受益者が支払う)
- 信託財産:委託者が受託者に託す財産
委託者から託された信託財産の名義は委託者から受託者に移りますが、最初の受益者を委託者に設定していれば、財産から利益を受ける人物は変わらないので贈与税は発生しません。
名義が受託者に移っているので、例え委託者が認知症になってしまっても信託財産が凍結されることはありません。
また名義が変わっていて委託者所有の財産ではなくなっているので、相続財産には含まれなくなります。
みなし相続財産として相続税の課税対象であり相続税対策とはなりませんが、遺産分割でもめてしまったとしても信託財産は共有名義になることはありません。
また受益者は複数人、何代でも設定が可能なので、これまでの相続対策では出来なかった数代先の相続のコントロールも可能となります。
注意点としては受託者と受益者が同一人物、つまり名義も利益を受ける人が完全に同一人物となった場合、1年後には信託は解除されてしまいます。
そのため受託者を第二受益者と設定する信託の場合、その代で信託が解除されてもいいようにするか、第二受益者を複数人用意して受託者と受益者が「完全に一致」とならないようにする必要があります。
このような家族信託の認知症対策、相続対策の機能を活用することで、父の再婚を支援する信託を作り出すことが出来るのです。
家族信託を活用して幸せな関係を作り出そう
高齢になってからの再婚を応援したくても応援できないのは、自分たちを育て上げてくれた両親の築き上げてきた財産が、これまで関わりのなかったパートナーに相続されてしまうことが大きな要因となるでしょう。
この要因を取り払えば複雑な気持ちは残っていても、「父が決めたことなのであれば…」と応援できるでしょう。
そこで、このような懸念を解決する家族信託を設計します。
今回は家族信託を活用する他に、遺留分を放棄する遺留分放棄と遺言も利用し、万全を期します。
登場人物
- 父A:Dと再婚したいと考えている
- 息子B:AとDの再婚は応援したいが、亡き母と父が築き上げた財産がDに相続されることは納得できない
- 息子の妻C
- パートナーD:Aとの再婚を考えているが、Aの財産自体は欲しがっていない
- パートナーの娘E:再婚自体は応援しているが、A亡き後母が何処で生活するのかが不安
家族の想い
- BもEも再婚自体は応援しているが、相続でもめることが不安
- AとEはAの死後DがAの自宅で暮らせるのか不安
⇒財産が互いの家系に相続されず、パートナーが父の死後暮らしていけるように設計する
家族信託の例
委託者兼当初受益者:父A
受託者兼二次受益者:息子B
第二受益者:息子の妻C
信託財産:自宅と現金
契約内容:父の死後パートナーDを引き続き自宅に住まわせ、Dの生活費は信託財産の現金から出す。D死亡後は信託契約を破棄し、残余財産は受益者に相続させる。
この家族信託の他に、父とパートナーがそれぞれの遺留分を破棄するようにし、自分の財産を自分の子供に全て相続させるという遺言を書くようにします。
このことにより
遺言で財産は子供に相続されるようになっており、遺留分は放棄されているので相続で相手に財産は流れません。
信託財産で遺されたパートナーの住む家と生活費は確保されているので、パートナーの住む家が無くなることも、生活費を息子夫妻やEが出す必要はなくなります。
このような家族信託と遺言、遺留分放棄の手順を行うことで、子供も再婚を応援できる状況を作り出すことが出来るのです。
まとめ
いかがでしたか?
遺言と遺留分放棄だけでは、父の死後パートナーが住む場所に不安が残ってしまいますし、相続財産から生活費を出す必要が出てくるので出した人が不満に感じてしまうこともあるでしょう。
しかし信託財産として隔離して運用するとなれば、パートナーのその後の生活について安心が出来ますし、「自分の財産から出す」ということもないので不満は出にくくなります。
「父の再婚を応援したいけど、相続での争いが…」という場合には、このように家族信託を活用することで、不安を減らして応援できるようにするといいのではないでしょうか?
相続サロン多摩相談センターでは、家族信託普及協会の家族信託コーディネーターが在籍しています。
家族信託についてのしっかりとした知識を持ったコーディネーターが、どのような家族信託にするといいのかを提案させていただきますので、是非ご相談ください。