遺言では出来なかった、自分の家系に財産を遺せる相続対策を知っていますか?

最近は誰も実家で親と同居せず、それぞれの住居を構えている人も多くなってきました。
とはいえ今も、代々伝わる実家に住んでいる人は多くいます。
そしてそのような場合、今後も自分の家系の人に住んでもらいたいと考えるでしょう。
しかし息子が2人いて、長男夫婦に子供が居なかったとします。
親の相続の段階では相続するのは子供ですから、どちらが相続しても問題はないでしょう。
しかし子供がいない長男夫婦が相続した場合には、その次の相続が問題になるのです。
子供がいない長男の相続では、長男の嫁が3/4、次男が1/4の法定相続分となります。
長男の嫁の相続分は多く、実家は生活基盤の中心となっています。
従来の家督相続であれば実家を次男が継ぐこともあるかもしれませんが、現代では実家は長男の嫁が相続することになるでしょう。
長男の嫁が実家を相続した場合、その後の相続ではあなたの家系の人物が法定相続人となることはありません。
つまり、実家は長男の嫁の家系に移ってしまうのです。
親が遺言を遺しておけば問題ないと思うかもしれませんが、遺言は書いた本人の相続には効力はありますが、その次の相続には効力はありません。
この場合でいえば、親が遺言で
「自分が死んだら長男、長男が亡くなったら次男に相続させる」
と書いたとしても、親から長男には相続されますが、長男から次男に関しての部分のときには効力はなくなっているのです。
今回は、遺言では出来なかったこの2回目、3回目の相続にも効果がある、家族信託という相続対策を紹介します。
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子供に孫が居ないと財産が流出する
長男に子供が居ないときに、財産が流出するということを詳しく説明します。
- 親の子供として長男、次男の二人
- 息子は双方結婚しているが、子供が居るのは次男のみ
という家系であったとします。
その場合親が亡くなった後、親と同居している長男が実家、次男は預金などを相続するでしょう。
その後長男が亡くなった時は長男の嫁が住んでいるので、大体の場合は長男の嫁が実家を相続する場合がほとんどです。
このときに次男が「うちの家系の土地なんだから、この家は自分が相続する」という主張をした場合、遺産分割はまとまらず争うことになってしまいます。
争ってしまうと法定相続分以外での合意は難しくなるのですが、長男の相続時の法定相続分は
- 長男の嫁(配偶者)は3/4
- 次男(兄弟姉妹なので第三順位)は1/4
となってしまい、不動産などの高価な財産を相続するのは難しいのです。
そして長男の嫁の相続発生時には、次男も次男の子供も血縁関係は無いので相続財産はありません。
つまり、この段階で先祖伝来の土地建物である実家は、長男の嫁の実家の財産となってしまうのです。
遺言では財産の流出は防げない

相続を被相続人(亡くなった方)の想うとおりにしようと考えたとき、思い浮かぶのは遺言でしょう。
しかし遺言で相続した財産はその段階で相続人のものとなるので、親から長男に相続された実家を、親の意思で別の誰かに相続させることは出来ません。
長男が新たに「実家は次男に相続させる」という遺言を書けば次男が相続することになりますが、それは強制できるものでもないでしょう。
例えそのような遺言を書いていたとしても、配偶者には遺留分という「最低限保証された相続分」が1/2あります。
場合によっては実家を売却してその資金を捻出しなければいけないという本末転倒の事態になってしまう危険性もあるのです。
一応、遺留分は放棄することが出来ます。
その為長男が嫁に対して自分の相続財産に対する遺留分を放棄させ、なおかつ遺言で「自分の相続財産の全てを次男に相続させる」と書けば、一族の財産の流出を防ぐことは出来ます。
しかし核家族化が進む現代で、そのような自分の嫁とって理不尽でしかない遺言を残し、遺留分を放棄させることは難しいでしょう。
遺言は誰かから強制させられたり、騙されて作成したものは無効となります。
更に遺言は1回書いたら終わりというものではなく、新たに書くことでそちらが優先されるようになります。
その為長男が「財産を一族に残す遺言」を書いて親の財産を相続したあとに、心変わりをして妻に残す遺言を新たに書くということもあります。
そして親、配偶者、子供には遺留分はありますが、兄弟姉妹には遺留分はありません。
長男が「妻に財産全てを相続させる」という遺言を書いてしまうと、先祖伝来の土地どころか、財産全てがなってしまうのです。
家族信託であれば流出を食い止められる
最近テレビなどで話題になっている家族信託であれば、このような先祖伝来の土地建物(実家)の流出を防ぐことが出来ます。
家族信託とは
家族信託は自分の財産を家族に信託し、管理・運用をしてもらう制度です。
- 自分の財産の管理を託す人 委託者
- 財産の管理を託された人 受託者
- 託す財産 信託財産
- 信託財産により利益を受ける人 受益者
家で言えば、親(委託者)は引き続き住みつつ(受益)、自分の家の管理を息子(受託者)に託し、修繕などをしてもらうというようになります。
ただ息子に管理を任せているだけの場合、所有権を持つ親に意思能力が無くなり契約行為が出来なくなると、リフォーム等の維持行為もままならなくなります。
後見人をつければ裁判所などに申請をして「現状維持」の為の修繕はできますが、「せっかくだからリフォームでIHのシステムキッチンにしようかな」などの行為は認められにくくなります。
これに対し信託財産の名義は受託者になるので、委託者が認知症などの意思能力が無い状態になってしまっても、リフォーム等の大規模修繕を行うことが出来るようになります。
家にソーラーパネルなどを設置していて、利益が出ていればその収入は受益者のものになり、固定資産税などは受益者が払います。
家族信託はこのような、認知症などの所有者の意思能力低下に対する対策としての面の他にも、委託者の死後のことも決められる遺言の機能も備わっています。
そしてこの遺言の機能が、これまでの相続対策では出来なかったことを実現できるようにしたのです。
数代先の相続をコントロールする受益者連続型家族信託
信託契約をしたときの受益者は、第一受益者、第二受益者、第三受益者というように複数設定できます。
- 第一受益者(親)が死亡した場合第二受益者(長男)、第二受益者が死亡した場合第三受益者(次男)に継承
- 第一受益者(親)が死亡した場合第二受益者(長男)、第二受益者が死亡した場合信託契約を解除して財産を次男に相続させる
というように、自分が死亡した後の相続に関してもコントロールすることが出来るようになるのです。

と疑問に思うかもしれません。
この方法の場合受益権は「第二受益者から第三受益者に相続される」のではなく、「第二受益者の受益権が消滅し第三受益者に受益権が発生する」というようになります。
第一受益者(親)から第二受益者(長男)に受益権が承継されるときは遺留分が発生する可能性もありますが、理論上は第二受益者から第三受益者に渡る際には遺留分は発生しないと考えられています。
この受益者連続型の家族信託を活用すれば、実家での長男夫婦の生涯を見届けた後に、一族の財産として更なる子孫につなげていくことが出来るようになります。
とはいえまだ家族信託は始まってから時間がたっていない制度で、家族信託で遺留分を侵害した場合の判例はまだありません。
その為専門家の間でも
- 家族信託は遺留分の対象にならない
- 家族信託でも遺留分の侵害はある
- 最初の受益権の継承では遺留分は発生するが、その次以降の継承では発生しない
という意見で分かれています。
その為「全財産を信託財産にすれば、絶縁状態の相続人にびた一文も渡さずに済むのか!」と考えて、全財産を信託財産にするのは止めた方がいいでしょう
これだけは一族に残さなくては!という財産を信託財産にして、それ以外は遺言を利用するといったことも有効です。
遺言に対して、「相続についてだけを記載した冷たいもの」という印象を持つ人が多いかもしれません。
しかし遺言には相続について以外にも、自分の想いを残すという大切な役割があります。
「長男夫婦にはとてもよくしてもらって感謝している。ただこの家と土地は私の何代も前から受け継いでいるもので、この土地建物だけは代々受け継がなければならない」
といったような、残された人への感謝、信託財産を含めた相続財産を何故このように分配したいかなどの想いを残すだけでも相続人の考え方は変わってくるものです。
受益者連続型の家族信託のデメリット
この受益者連続型の家族信託ですが、気をつけなければならない点も存在します。
信託の期限
受益者連続型の家族信託では、受益者はまだ生まれていない「ひ孫、玄孫」なども指定することが出来ます。
その為、何百年後に生まれるであろう子供に関しても指定はできます。
しかし、残念ながら例え指定していたとしても、そこまで先の未来の相続にまで影響を及ぼすことはできません。
その理由は、受益者連続型信託は期間が制限されているからです。
契約開始から30年経過後、その時点の受益者が死亡し次の受益者に継承された段階で信託が終了し、その受益者に残余財産(信託財産だったもの)は相続されます。
第一受益者を親、第二受益者を長男、第三受益者を次男、第四受益者を次男の子供、第五受益者を次男の孫としたとします。
30年後に親が亡くなり受益権は長男が持っていらとすると、長男死亡後次男に受益権が移り、その段階で信託が終了し財産は次男が相続します。
その為次男の子供が亡くなったときには既に信託財産ではないので、通常の相続財産として扱われることになります。
信託財産の所有権は受託者のものになる
信託財産の所有権が受託者に移るというのは、認知症対策として重要ですが、この点がある意味デメリットとなってしまうことも考えておきましょう。
もしも全財産を信託財産としてしまうと、自由に使える財産がなくなってしまうのです。
例えばあなたが自分の財産全てを息子に信託したとします。
すると今後自分の財産で自由に使えるお金がなくなってしまうので、旅行に行ったり、外食に行く際に、息子からお金を受け取らなければならなくなってしまうのです。
本当に信用できる相手でないと…
信託は後見制度よりも自由に財産を運用することが出来るのですが、その分後見制度よりも監視の目が少なくなってしまいます。
後見人は被後見人の代わりに契約行為をするのですが、裁判所に報告義務があります。
その為被成年後見人の自宅の不動産売却などに関しては、事前に裁判所に申請し許可を得る必要があり、裁判所に監視されているような状況になっています。
しかし信託ではその監視の目が無いので、信託財産を不正に使用されてしまうケースも存在します。
その為、本当に信用できる人物に信託する必要があるのです。
もしも受託者がしっかりと運用できるのかなどの心配がある場合、信託監督人という、委託者を支援・監視する専門家を指定するという方法があります。
この場合監督人への報酬が追加でかかってしまいますが、安心した家族信託が出来るようになります。
まとめ
いかがでしたか?
これまでの相続では次の世代までしか関与できませんでしたが、この受益者連続型の家族信託であれば、その次以降にも財産をコントロールすることが出来ます。
代々伝わる土地建物をお持ちの場合、飲食店などを経営していて、自分の息子、孫に継いで欲しいという場合などに、この受益者連続型の家族信託は活用することが出来ます。
受益者連続型の信託は他にも跡継ぎ遺贈型とも呼ばれています。
どうしても遺したい財産がある場合に、家族信託を活用してみてはいかがでしょうか。
相続サロン多摩相談センターでは、家族信託普及協会の家族信託コーディネーターが在籍しています。
家族信託についてのしっかりとした知識を持ったコーディネーターが、どのような家族信託にするといいのかを提案させていただきますので、是非ご相談ください。
家族信託のメリット・デメリットを更にまとめている記事もありますので、興味がありましたらどうぞ